コラム

 

      “技術調査“随想

                       2014年4月 安斎昭夫

                      (当社取締役技術調査部門長)

 

技術調査を始めたきっかけ

話は5年前に遡ります。40年近く勤めた会社を退職することになり、ようやく悠々自適の生活が始められると嬉しさいっぱいでした。現役時代に多忙な毎日を送っていた時には、趣味のゴルフとテニスと読書に散歩・・・晴耕雨読の日々を夢見ていたわけです。ところがいざ退職の日が近付いてみると、“自分は64歳が来たからと言って突然このままいわゆる老後の生活に突入してよいのだろうか。気力・体力はまだまだ衰えていない、半導体の専門知識や、研究開発・マネジメント能力は捨てたものじゃないはずだ。英会話もまだまだ通用するだろう”というような迷いが生じてきました。(これは今の日本の多くの同世代の皆さんの悩みと共通するものだと思います。)そんなある日会社でお世話になった大先輩から“古賀総研という八王子にある会社で技術調査の仕事をやってみないか”とのお誘いを受けました。当時技術調査とは全然縁がなく、つまらなそうだったらすぐ断ればよいという軽い気持ちで会社を訪問しました。

 

古賀総研のシルバー技術者集団

会社のドアをあけてみてまずびっくりしました。そこでは私よりも5歳も10歳も歳をめした白髪・薄髪の方々が目を輝かせて何かを議論していました。調査報告書のレビューだったかと思います。聞いてみると、調査担当の皆さんは工学、理学の学位を取得した方、技術士の資格を持った方、IEEEフェローの称号を授与されたというような方が30%を超えるということでした。またこの会社のお客様は、著名な(独法)研究機構、最大手の電機、部品、素材メーカの研究開発部門、大手商社、投資顧問会社など、錚々とした企業や組織でした。この小さな調査会社がよくここまで・・・というのが正直な印象でした。

 

厳しい新人教育

早速週3日勤務(休みは4日間)で技術調査の仕事を始めることになりました。いわゆる3俗4仙の生活の開始です。調査の基本は、自分の専門知識をベースにして技術文献の調査、関連特許の調査、ライバル企業の技術分析と評価です。特にその技術の将来の発展性や市場性などについてWeb情報なども加えて、お客様の調査目的にかなった報告書を作成するというものです。私の第一作目の報告書はレビュー会議で徹底的にケチをつけられました。突っ込みが甘い、この側面からの検討がまるで不十分・・・と酷評され大変腹がたちましたが、なるほどと思える指摘も多くありました。第2作目は先輩の批評の視点を十分意識して報告書を作成した効果(?)があって小修正で合格となりました。3作目以降はすいすいと弾むような気持ちで調査に取り組めるようになりました。

 

調査取りまとめとお客様との対話

技術調査の仕事が軌道に乗った頃、上司から調査の取りまとめを担当するよう指示がありました。取りまとめ業務とは、調査担当者と一緒に技術調査を打診されてきたお客様を訪問して、調査の目的や狙い、調査の範囲などを打ち合わせます。その結果に基づいて調査仕様(ないし提案書)を作成し見積書を発行します。幸い古賀総研はシルバー会社―いわゆる第2の技術者人生を楽しみながら社会貢献をする会社―ということで、大手の調査会社と比べると大分割安な見積になり金額で揉めたことはあまりありません。発注を頂いたら、適宜調査の途中状況を連絡し必要な時には中間報告を行いながら最終報告書を仕上げます。調査結果の報告の仕方は、お客様側数名への報告の場合や、20~30名の方々への講演とQ&A形式の報告会の場合があります。あるお客様ではTV会議方式で海外3拠点を結んだ検討会形式の報告会を行いました。報告内容がお客様が調べたいと思っていたポイントにズバリ当たった時などねぎらいの言葉を頂くことがあります。またある時は調査対象とした商品をプレゼントされたこともありました。技術調査を行って良かったなとしみじみ思うひと時です。

 

技術を評価する視点が変わった

技術調査に携わってきてから、徐々にですが優れた技術とか世の中を変える技術という言葉の意味合いが自分の中で変わってきたような気がしています。専門が半導体技術ということもあったかと思いますが、最先端を走る深堀り技術、他の技術より機能性能で格段に進歩をもたらす技術、というように技術単独で優劣を判断していることが多かったように思います。ところが最近は、大きな社会的な課題を解決する技術、それが革新的に進んだ技術でなく改良型の技術でも関連する技術との組み合わせにより産業そのものを大きく前進させる(可能性のある)技術が本当に優れた技術と思うようになりました。

例えば燃料電池自動車を考えてみましょう。燃料電池車の技術の一番のポイントは燃料である水素ガスを酸素と反応させて電気を発生させるための電極触媒技術にあると考えていました。画期的な触媒さえ開発できれば、コストも下がり燃料電池車は大発展間違いなしと思っていました。しかしそれはそれで正しいのですが、この時水素ガスに関連する技術はどうなのでしょうか。燃料電池の触媒問題が解決しても、同時に水素ガスの製造、運搬/貯蔵のための低コスト化技術の進歩、それにクルマに水素ガスを供給するいわゆる水素ステーションという社会インフラの整備が同時並行に進展しないと燃料電池車の普及は進みません。水素ガスの製造は、きわめて安価な電力(世界中を見渡してみてあれば)の話ではありますが・・)を利用した水の電気分解で製造するか、低コストのシェールガスの改質で製造するか。水素ガスの運搬はボンベに圧縮封入する方式か、トルエンなどのベンゼン核に水素を反応させて液体に凝縮した形で運搬する方式か、水素ガスを効率よく吸蔵する合金を利用して金属塊の形で運搬する方式か。また水素ガス運搬/貯蔵や水素ガスステーションでは安全性が何よりも重視されますが、世界各国の安全に関する法規制に適合しているか。ステーションでの供給ノズルの標準規格に対応できる技術は十分かなどなど。

燃料電池車の例がふさわしかったかどうか分かりませんが、注目している技術単独ではなく、それを支える技術または関連する技術というようにその製品ないし産業に関連する技術全体を俯瞰すること、その技術の社会環境とのかかわりを考える中で技術の価値を考えるというふうに、技術の評価の視点が変わってきたことを実感しています。日本経済新聞を見るとき、技術や産業に関する注目する記事がこれまでよりも3倍にも5倍にも増えたような気がしています。

 

おわりに

この5年間を振り返ってみると、依頼される技術調査分野も大きく変化しているのが実感されます。特に東日本大震災後は、社会インフラに関連する調査、原発停止に伴う電力問題への対応(グリーンエネルギの活用、地域/ビル/家庭レベルの節電システム、さらに電力の発送電分離や電力小売りにかかわる新ビジネス)関連の調査依頼が増えています。このニーズ変化に対応できるように調査員(私たちはシニアスタッフと呼びます。)の拡充を図ってきました。ハイテク全盛の時代には影の薄かった基礎技術分野(金属、セラミックス、溶接、有機化学素材などの材料技術、モータ、インバータ、実装/冷却などの技術、発電/送電技術など)の調査体制も整えることができました。また高齢化社会の進展に対応すべく、ヘルスケアやバイオメディカル分野の技術者ネットワークを充実させてきました。より広範囲な調査ニーズに対応できる体制ができたと自負しています。

 

第2の技術者人生をより充実したものにしたい、まだまだ社会に役立ちたい、孫の世代にも住みよい社会・環境を残してやりたい・・・という当初の想いと同時に、発想に柔軟性がなくなってきていないか、自分たちだけの思い込みをお客様に押し付けていることはないか、老害をまき散らしていないか・・・、お客様との打ち合わせ後の帰宅の電車で反省を怠らない努力を心掛けています。

 

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